I 市に住む Kさんのお宅までアレンジを届けに行った。
お見舞いに使うので 小さなアレンジメントを届けて欲しいということで・・・・
ちょっと距離があるので 通常は発送する場所なんだけど 急ぎの用らしくて 僕が仕入れ帰りに直接届けることにした。
「いつも通り こっちが内山さんのお店に行かれればいいんだけど ウチのひと いま車の運転ができなくてねぇ」
Kさんの ご主人は 抗がん剤治療を続けている
そして いまは あまり良い状態ではないみたいだ。
Kさんご夫婦には 僕とひとつ違いのお嬢さんが居た
僕の妻と 同じ職場だった Kさんのお嬢さんは すごく穏やかで やさしい 笑うと目が無くなってしまうような笑顔の可愛らしい人だった。
僕の作った ウェディング・ブーケを持って結婚式をした彼女は 二人の子供に恵まれて その後 郊外に新居も構えて まだまだ これからという時 あっという間に癌で亡くなってしまった。
三十代の女性に増えているという腸の癌だった。
その時の ご両親の気持ちというものは ここで僕がなにを言っても 平べったい うすっぺらな表現にしかならないだろうと想う。
皮肉にも その お嬢さんと同じ場所の癌に苦しめられているご主人の気持ちってものを考えたりする
そして その横に居る奥さんの気持ちも。
癌が見つかって どのくらいだろう
決してお若いとはいえない年齢は 癌の進行にたいしては 悪いことばかりでは無いかもしれないけど。
Kさんの お宅に行くのは お嬢さんの婚礼の日に ブーケを届けた時以来だ、かれこれ20年くらい前かな。
古くからの農家の家が並ぶ Kさんの家のまわりは 20年前と殆ど変わってなくて 迷わずにたどり着く事ができた。
僕は頼まれたアレンジを渡して ほんの少しの花瓶用の花をプレゼントした
亡くなったお嬢さんは お母さん似だった事を再確認するような 奥さんの笑顔。
せっかく 上がってお茶でも・・・って言ってくれたんだけど
開店前の配達で急いでる旨を伝えて Kさん宅を後にしました。
20年前と 同じ景色。
ご両親の心の中にも 止まったままの何かがあるんだろうな
人と比べて 自分が幸せだって思うのは あんまり正しくないと想うけど 僕がこうして無事に生きて 甘ったれ中年で居られる事は やっぱり恵まれているんだなぁ・・・
今日の千葉は めずらしく雪が降っている まぁ 雪っていっても みぞれだけれど
車に 乗るとき 空を見上げたら 目の中に まともに雪が入った
湿っぽい みぞれのせいで 僕は大粒の涙をこぼした顔になった
なんだか 一芝居うっている 偽善者になった気分だった。