市場から仕入れの帰り、兄の経営する工場に寄ってきた。
父の代から続いているこの家業は 現在兄が代表となり 父と二人で切り盛りしている。
今日はアニキにちょっと頼みがあるのだ、アレンジメントを作る時の吸水性スポンジを切り分ける際、フローリストナイフでは刃渡りが足りないので要らなくなった包丁を使っていたんですが いかんせん危ない!っていうかお客さんが来た時カウンターにむき出しに置いてあると絵面的にマズイ!
それ用のナイフも市販しているんですが、 家に有る少し錆びて使わなくなったモノをリサイクルしようと思ったわけです。
(パンを切る時の包丁って有るじゃないですか あれなんて言うんですか、我が家では名付けて『パンを切る時包丁!』・・・・・・・・・そのままだ・・・・・・・シュール・リーさんあたり、御存知でしょうか?)
そいつの刃の部分をグラインダーで削ってもらおうと思いまして 今朝 仕入れに出る未明に刃渡り20センチの「パンを切る時包丁」を新聞紙で包み、怪しい40男はそれを車の助手席に・・・・
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・・・・・・・・・なんか、まずくないか?!
・・・・・・捕まる・・・いや、捕まったらなんて言い訳しよう・・・・・
「いやっ、おまわりさん、僕はパンが好物なんですよっっ、いつでも無駄なくパンが食べられるようにこの『パンを切る時包丁』がぁぁ・・・」
「はい、はい、後は署で訊きますからねぇ!」
・・・・なんて事になる前に急いでアニキのところへ行こう・・・
事情を話し 早速兄はそれを加工してくれました。
職人の手であります。
今ではすっかりネジ職人の域に達したその手で「パンを切る時包丁」は「オアシス・ナイフ」へと生まれ変わりました。
もはや何人もいないであろう 足踏みのロクロでネジを切ることが出来るネジ職人の父から 兄が受け継いだ物は 必ずしも貴重な技術や揺るぎない「志」ばかりではなく 量産、効率の流れと微妙にずれていく 苦しみやジレンマが有ったと思う。
その家業を兄と実家に置き去りにして好きな仕事を続けてきた僕がうかがい知れる苦労はホンの少しかもしれない。
でも にいちゃん、僕のルーツはやっぱり そこに有るみたいだよ。
「作り屋」って 呟くだけで 体の何処かが ギュッとなるもの・・・・